中桐 聡美 個展
水を切って
 
NAKAGIRI Satomi solo exhibition
cleave the water


2023年2月7日(火)から12日(日) 
12:00から18:00 月休み


KUNST ARZT では、中桐聡美の個展を開催します。
中桐聡美は、傷つける、着色するといった行為を通して、
シルクスクリーンによる単一な海のイメージを変容させ、
「移ろい」を引き出すアーティストです。
作家にとって馴染み深い瀬戸内海の海のイメージを
シルクスクリーンで刷った後、
カッターナイフで傷つけることで、
水しぶきのようにインクに染まっていない
内部の白い紙の層が立ち現われたり、
また一方ではインクを滲ませることで
その水しぶきがおさまり、静寂さを取り戻したり、
あるいは強い風が吹きつけているような
イメージにも見えます。
版画表現としても、水の表現としても
強いオリジナリティーを確立しています。
(KUNST ARZT 岡本光博)


PRESS RELEASE



NAKAGIRI Satomi (b.1995, lives and works
in Okayama pref) is an artist who scratches,
colors, and brings out "transitions"
in single silkscreened images of the sea.
She earned her master's degree
in a printing course at Kyoto city University of the Arts.



アーティスト・ステートメント
 
記憶や感情といった、明確な形がないものの
「移ろい」をテーマに制作を行っている。
人が抱く感情や記憶といったものは
刹那的でゆらぎのあるものだ。
以前抱いてた感情を再び正確に思い出すことは難しく、
形を変えてもなお残っていくものもあれば、
跡形もなく消えていくものもある。
同じものを同じように見ているようでも、
自分と他人が見ているものは全く別のものであり、
そこから感じる印象や感覚は日々異なるもので、
常に変化していると考えている。
 シルクスクリーンで刷った写真イメージに、
カッターナイフで紙が切れないぎりぎりの
深さでドローイングを重ね、その傷に
水性インクを滲ませていく手法で
制作を行っている。
ドローイング によってできた傷に
水性インクを滲ませることで、
イメージが上書きされ、
新しいイメージが現れる同時に、
淀みのようにとどまるイメージもある。
私が行うドローイングは、元の写真イメー ジを
全て消し去るというわけではなく、
面影を残しながらも別のものに変化してしまう
「移ろい」である。

 My work is based on the concept of ''transitions'',
such as memories and emotions,
which have no definite form.
Our memories change over time and sometimes fade out.
So, it is difficult to accurately recall them.
Also, our emotions are ephemeral.
Even if we see the same thing, how to feel is not universal.
The impressions and sensations
which we get from it are changing from day to day.
 I print a photographic image on paper by silkscreen.
After that, I scratch the print with a cutter knife
and blur the water-based ink into the scratches.
By doing this, sometimes the first image turns into a new image,
and sometimes remains stagnant.
The original image does not disappear completely,
but transforms while leaving traces of itself.
Through my drawings, I try to express ''transitions''.




個展「cleave the water」(2023)展示風景
photo by Kaori Yamane



世界の縫合 - 中桐聡美「水を切って」
安井海洋

中桐聡美は、自らが撮影した瀬戸内海の写真を
スクリーン印刷で紙に転写する。
水色の一版で同一の図像を同じサイズの紙に何枚も刷って、
刃を束ねたカッターナイフで傷をつける。
複製された写真が傷によって一点ずつ異なるイメージを見せる。
 スクリーン印刷における写真製版では、単色で印刷する場合、
グラフィック・ソフトウェアでデジタル写真のピクセルを白と黒
(本展の作品の場合は水色か青)に置き換える。
つまりインクの乗る部分と乗らない部分のオン・オフだけで
イメージを形成するのである。
単色による写真製版の技術が発明されたのは19世紀末だから、
現代のヒトの眼は密集する点を奥行のある空間に錯覚することに
慣れきっているといえよう。
こうした認知の枠組みは、ライプニッツが1714年に執筆した
『モナドロジー』を想起させもする。
 だが、ヒトの眼が構成単位としての粒を見出した瞬間、
そのような写真のイリュージョンは瓦解する。
銅版や木版といった他の印刷技法は切れ目のない線と面からなるが、
スクリーン印刷の場合では細かなインクの粒を
配列することでイメージを形成する。
本展の作品は、製版時に線数をあえて
小さく設定することで図像を粗くし、
刷の物質性を前景化しているから、
そこに粒があると観者が認識するのは容易である。
カメラが捉えたひとつづきだったはずの世界は、
製版を経ることで微小な単位に分裂してしまう。
 しかし、その上から傷を刻むことで、
中桐は分裂した分裂を縫い合わせる。
本来、「傷」は対象が分割されたさまを指す言葉だが、
これらの作品においては粒をつなぐものに反転する。
さらに彼女は傷にインクを垂らして滲ませることで、
それらの境界をぼかしている。
インクが毛細管現象で紙上に広がるのを見て、観者はこれらの傷が、
筆が支持体の上に乗せる顔料とは本質的に異なる、
粒と粒を連絡するパイプであることに気付くだろう。
粒に分割された図像を傷が縢り合わせることで、
瀬戸内の海景は再び連続した世界の姿を取り戻す。
分割と連続が矛盾したまま、一枚の紙の上に収められるのである。
そして傷は世界のなめらかな表層を破り、
その向う側の現実をわずかに覗かせている。




ガラス窓#3
2022
シルクスクリーン、水性インク、紙
727×727mm
Photo(s) by Takeru Koroda, courtesy of Kyoto City University of Arts



経歴
 
1995 岡山県出身
2020 京都市立芸術大学大学院
美術研究科絵画専攻 版画 修了

展覧会
2021 「tide me over」atelierZ (岡山)
2022 湯涌創作の森AIR  レジデンス作家2人展+、
湯涌創作の森 金沢市民アートギャラリー(金沢)
2022 「測鉛をおろす」
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA



    

時雨#1〜4
2021
シルクスクリーン、水性インク、紙
1800×580mm each












for the collection of
NAKAGIRI Satomi's works